こんにちは。ギボンヌです。
入れ歯を作ったけど痛くて噛めない。
歯医者に行って訴えて調整してもらっても、今度は別のところが痛くなる。
何度も通ったけど、良くなる気配がない。
そもそも入れ歯がはまらない。
挙げ句の果てに、歯医者の先生に「保険の入れ歯はこんなのだ」「これ以上どうにもできないからもう来るな!」と言われ追い返されたなどという話も聞き心が痛んでおります。
そんなことありますか?
私は現在、院内で入れ歯や差し歯を作っている歯科技工士です。
入れ歯に悩み、ストレスで疲れ切った新規の患者さんが酷い入れ歯をなんとかしたくてウチに来られます。
実は、「保険の入れ歯が合わない」のには深い理由があるんです。
一部の歯科医師や歯科技工士にとって耳の痛い話になるので、嫌がられるかもしれません。
でも、実情を晒す必要があると思うので書こうと思います。
歯科技工士になって25年をこえた私が「入れ歯が合わない理由」と「入れ歯が上手い歯医者の見極め方」を分かりやすく解説してみようと思います。
保険の入れ歯が痛い!合わない!はまらない!その理由は?
入れ歯は歯科医師が型をとって、それで作った模型に合わせて歯科技工士が手作りします。
いわゆるオーダーメイドです。
その人のその時の状態に合わせて作ります。
歯科医院に歯科技工士がいる場合は少なく、ほとんどの歯科医院は歯科技工所に外注するかたちが多いです。(私は歯科医院の歯科技工士です。)
その工程の中に入れ歯が合わなくなる理由は散りばめられていたりします。
保険の入れ歯が痛い、合わない、はまらない、その理由について解説してゆきます。
①入れ歯の保険制度による製作工程の問題
保険の入れ歯を作るには必要な手順があります。
その手順をとばせば合いにくくなります。
多くの歯科医院で保険の入れ歯を作る際にとばされている手順があります。
それは「個人トレーでの型取り」です。
保険の入れ歯製作では多くの歯科医院で「既成のトレー」での型取りのみで済ませていたりします。
けれども「個人トレーでの型取り」は合う入れ歯を作るためにはとても重要な工程です。
「個人トレー」とは個人個人の歯と顎堤と粘膜に合わせたトレーを作製し、それで精密に型取りをします。
「個人トレー」は保険点数がつかないため作らずに入れ歯を作製することが多いのです。
保険制度の問題も大きいですね。
しかしながら、多くのケースで「個人トレー」なしで合う入れ歯を作るのは困難です。
粘膜が当たって痛くてどうにもならないような場合はこうした工程の問題が考えられます。
②入れ歯の製作方法と材料の問題
入れ歯を作る製作方法は一つではありません。
ですが、保険の入れ歯を作るのは、ほとんどが昔ながらのやり方です。
それは、石膏の雌型に餅状になったレジンを充填し鍋で加熱するというやり方です。
これは、膨張による誤差がとても大きいやり方です。
万力で圧をかけたとしてもどうしても浮き上がります。
大手の歯科技工所で大量にこなせるために大型機械を使いますが、それでもかなりの膨張と浮き上がりがあります。
模型を石膏に埋めてしまうので、レジンが炊き上がった後に、咬合器(噛み合わせを再現する器具)に再度装着して、噛み合わせを確認し調整してピッタリに仕上げることはできません。
合ってないけど、そのまま仕方なく完成されます。
咬合器の再装着はやろうと思えばできるものもあるのですが、効率的に考えて保険の入れ歯ではやりません。
これは、歯医者さんが噛み合わせの調整に時間がかかる理由の一つです。
昔ながらのやり方以外にも製作方法はあります。
咬合器に再装着できるやり方として私は「流し込みレジン」という材料での製作を全ての入れ歯に採用しています。
ですが、多くの歯科技工所ではコストをなるべく下げたいので少しコストがかかるこの方法を採用するところは少ないです。
ほかにも精度のよい材料はあります。
けれど自費の入れ歯でなくては赤字になってしまうため採用できない高価な材料しかありません。
③入れ歯の製作工程の分業による問題
保険の入れ歯の多くは1人で最初から最後まで受け持つのではなく、分業で作られています。
私が歯科技工士1年目に受け持った仕事は、入れ歯のレジンの充填と炊き上げと割り出し(石膏から入れ歯を取り出す作業)でした。
この割り出しでは、下手にやると入れ歯が変形します。
これは懺悔なのですが、「変形したかな?」と思うことが幾度もありました。(ゴメンナサイ)
でも、割り出してしまうので模型がなくなるため誰もその変形を確かめようもありませんでした。
副模型を作っていれば変形していればわかりますが、コストと手間がかかるので保険の入れ歯では副模型はつくらないのです。
2年目の先輩は入れ歯の研磨を受け持っていました。
3年目でクラスプ(入れ歯の留め金)製作。
5年くらいで人工歯の配列。
10年くらいすると自費の入れ歯の金属の製作。
という感じで、ある程度分業になっている歯科技工所が多いのです。
なぜなら、専門学校をでて免許を取ったからといって、1人で入れ歯を作ることなどできないからです。
1年目、2年目がやる仕事がとても重要なのですが肉体労働や汚れる仕事は新人にやらせるようでした。
現在私は一人で入れ歯を作っています。
今感じるのは1年目2年目に任せるのには丁寧に指導しなくては難しい仕事があると感じています。
2年目の人が入れ歯のカタチや模型上で粘膜を見る力を持っている人がいるとしたら稀だと思います。
さらには、それを指導できる先輩技工士もいなかったりします。
これは患者さんの口の中を実際に見たり、密に歯科医師とコミュニケーションをとっていないと理解が難しいところなのです。
歯科技工士は現場にいないで模型だけ見ている人が多いため、生の患者さんとその口腔内を見る機会が少ない(又は全くない)のです。
入れ歯の長さは1ミリ違っても大きく変わります。
厚みもそうです。
仕上げに関わるところを新人が受け持たなければ仕方がない環境も入れ歯が合わない理由につながると感じています。
④入れ歯の製作工程の手抜きによる問題
総入れ歯ではなく歯が残っている場合は特にですが、模型上で入れ歯の着脱方向を確認して記録してゆきます。
それは歯の向きによって、引っかかって入れ歯が入らないためです。
保険ではその工程がとばされたり、テキトーにされることが多いようです。
クラスプ(金属の留め金、バネ)が引っかかってしまうと院内では調整するのは厳しいです。
部分入れ歯でどうしても入らないようなケースはこれが理由の一つかもしれません。
これは一から作り直ししてもらう必要があります。
⑤2025年問題と歯科技工士不足
2025年問題については介護職などの不足が取り上げられやすいですが、これは歯科技工士も例外ではなく、すでに現在は深刻な歯科技工士不足に陥っています。
歯科技工士はかつて3Kとも言われ、すでになり手が少なくなっていましたが、この2025年問題は本当に深刻なのです。
歯科技工士は入れ歯と差し歯とに専門で分かれる場合が多いです。
差し歯はCADCAMで取って代わる試みが進んでいて、歯科技工士不足に対応するように動いているように思われます。
しかしながら、入れ歯はCADCAMで取って代わることができません。
できるという人がいると思いますが、現場でやっているものの感覚としては粘膜に合わせるのはまだまだデジタルの技術では無理だと感じています。
その上、技術者は減る一方です。
全体数が少ない上で、きちんとした入れ歯を作れる人はさらに少なくなります。
人手不足ですから、大量に作るためには上記のような分業もさらに必要となるでしょう。
患者さん、歯科医師、歯科技工士の距離が遠くなればなるほど悪循環にはまり、入れ歯は合いにくくなります。
このループにハマって欲しくはないのですが、そういう流れはこれからも続かざるを得ないでしょう。
他にも細かい理由はあるのですが、大きな事としてはこの5つだと思います。
保険の入れ歯がはまらない理由
そのほかにも入れ歯がうまくはまらない理由はあります。
これは調整可能なケースです。
「他は合っているけど部分的に気になる」というような場合ですね。
歯科技工士が入れ歯を作るときには、歯科医師が調整する方が良いところは残していたりします。
それは粘膜には弾力があるのでどのくらいの調整でいいかは口の中にいれてみないと分からないからです。
模型は硬いので粘膜とはちがいます。
模型だけを信じて作るとゆるくなってしまいますから、1度ないし2度、生活のなかで入れ歯を試してもらいながら様子をみて調整します。
よくあるのは、下の入れ歯の舌側の奥は深く入り込んでいる場合や骨の隆起がある場合には何度かの調整が必要でしょう。
抜き差ししていて粘膜に傷がつくと炎症を起こして痛くて入れられなかったりしますから、炎症が治るまで無理に入れ歯を入れないようにしましょう。
そして、歯科医師に少しだけ調整してもらいましょう。
一気に沢山調整してしまうと後戻りができないので、慎重さが必要です。
入れ歯は粘膜という柔らかいところをとらえるものなので、差し歯のように機械的にはすすまないのです。
合わない入れ歯はずっと合わない
通常の工程を経ている入れ歯は、出来上がったときには少しの調整で、痛みがそんなにない状態で帰ることができます。
使っている間に痛みが出る場合は、再度調整をしてもらいましょう。
ですが、入れ歯が出来上がった時にどうしても合わない、痛くて仕方がない場合、その後は何度調整しても合わないことが多いです。
入れ歯に必要な製作工程を経ていないのに、付け焼き刃で調整して合わせるなどというのは無理なお話で、さらに困難なことなのです。
けれども、「保険の入れ歯が合わない」ことが当たり前になってしまっている歯科医師は残念ながらおられます。
合わなくても無理やり合わせて患者さんを帰らそうとしてしまいます。
そういう場合は出来上がったその日に、「作り直して欲しい」とはっきり伝えたほうがいいでしょう。(作り直してちゃんと作れるか?が疑問ではあるのですが…)
同じ工程であれば、また合わないかもしれませんが、「合わない」という状況を歯科医師だけでなく、歯科技工士にも伝えることができます。
タダで作り直しすることになるので歯科技工士にとっては大損なのです。(ただ大きな歯科技工所で分業の場合、そういう感覚すら欠落していたりしますが)
痛い思いをしなくては改善しようとしないので、無理な場合は正直に伝えましょう。
そうしなければずっと合わない入れ歯で過ごさねばならなくなります。
注意して欲しいことがあります。
1度保険の入れ歯をつくるとすぐに他の医院でも保険の入れ歯をつくることができません。
6ヶ月経たなくては保険ではつくれないのです。
これは本当にお気の毒なのですが。
ですから、最初からちゃんと入れ歯に取り組んでくれる歯科医師を見つけて欲しいです。
業界にいる私でも見極めるのは難しいですが、最低限のところをお伝えしたいと思います。
保険の入れ歯が痛い!合わない!はまらない!歯医者の選び方を解説
入れ歯が上手い歯科医師の見極める質問
できることなら「入れ歯の評判がいい歯医者」を選びたいですよね。
そういう周りの声、クチコミは聞いておいたほうがいいです。
特に入れ歯はお年寄りのネットワークで噂がまわりますから、なんでも食べている元気な人に何気に質問してみるとポロっと「入れ歯の評判がいい歯医者」を教えてくれるかもしれません。
ネットの評判はあまり当てになりません。
情報操作している可能性があります。
生の情報を得ることをおすすめします。
生の声、評判をきくことなく歯科医院を選ぶのは難しいことです。
けれど、入れ歯IQが高い歯科医師を選ぶことはできると思います。
入れ歯IQが高い歯科医師が選ぶ歯科技工士ということになりますから。
入れ歯を作る際には、歯科医師に回数や手順を質問して確認してみましょう。
一本義歯や小さな入れ歯は型取りをして、その日に噛み合わせも調べて、次の回に完成さる場合もあるので、すべてのケースでこれには当てはまる、わけではないですが、そこそこ大きな入れ歯だとこんな工程をとります。
①個人トレー用の型取り(既成のトレーで)
↓
②個人トレーでの型取り(その人だけのトレーで)
↓
③噛み合わせの位置を調べる(ロウの土台で)
↓
④仮に人工歯を並べて試敵する(ロウに人工歯を配列する)
※歯並びの修正やゆがみなどもここで言わないと直せない。
※必ず鏡で見せてもらいましょう。
↓
⑤完成
↓
調整(1回ないし2回)
入れ歯の完成までは早ければ5回でできます。
つまり、工程ごとに1週間づつ時間を頂くので、入れ歯を作るのには少なくとも1ヶ月はかかるということになります。
もしも、小さくもない、前歯を多く含むような入れ歯なのに「3回でできる」と言われた場合はもしかすると工程をとばすのかもしれないので、要確認です。
個人トレーが保険点数がつかないため、自費の入れ歯の製作の時だけ個人トレーを製作するという歯科医も多いです。
しかしながら、個人トレーでの型取りはいつもやっていないと上手くなれません。
「個人トレーが必要なら特別にやりますよ」
という歯科医師なら、普段は個人トレーを使っていないので、個人トレーでの型取りが下手な可能性が高いです。
おすすめしません。
別の歯医者を選びましょう。
個人トレーでの型の取れ具合や入れ歯の仕上がりの違いを理解している歯科医は保険の入れ歯でも個人トレーを製作するようにしていると思います。
それは、「損して得を取る」という考えかたをしているのだと思います。
やはり、患者さんが喜んでくれるほうが歯科医師も嬉しいのです。
そんな賢明な歯医者さんを選んでいただけたらと思います。
そんな歯科医師にはそれに合う歯科技工士がついている可能性がほんの少し高いと思います。(深刻な歯科技工士不足なので、出会えなくて困っている賢明な歯科医師もいるかもしれませんが)
おわりに
歯医者さんでは入れ歯がすぐにできると思われるかたも多く、1ヶ月もかかると伝えると驚かれることもあります。
「急いで欲しい」という要望にはなるべくこたえていきたいとは思いますが、工程を減らすより、製作日数を減らす対応にならざるをえません。
これは歯科技工士が身を削るのでいつも誰にでも皆んなにできることではありません。
良い入れ歯を入れるには最低限の回数、最低限の期間が必要です。
急げば、逆にあとで長く痛かったり合わなかったりして時間がかかってしまったりします。
ぜひ、じっくりお付き合いいただけたらと思います。
最後までお読みくださりありがとうございます。
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